woerk 7

遅延性エコラリア

Delayed Echolalia
2008年/インスタレーション

「エコラリア」とは、障害者による発語です。他者の話した言葉の反復であるため、反響言語あるいはオウム返しとも訳されます。「エコラリア」は、「即時性エコラリア」と「遅延性エコラリア」の 2 種類に分けられます。「即時性エコラリア」は、モデル掲示後直ぐに表出される言語行動であるのに対し、「遅延性エコラリア」は、モデル掲示後長時間を経過して表出される言語行動です。

本作品では、私が遭遇した4種類(以下のA~D)の「遅延性エコラリア」を4つのトランペットスピーカーから定期的に流す試みを行いました。また、各トランペットスピーカー近くに①いつ、②どこで、③誰による発語であるかをテキストにより表示しました。

発語を耳にした鑑賞者の多くは、ユニークな語調やその場の状況と発語内容との不一致に声をあげて笑いました。しかし、しばらくすると、「これは一体何を表現した作品なのか」という思考に入り、小さなキャプションに情報を求めます。発語の主を知った途端、鑑賞者は笑った口を抑え神妙な面持ちになりました。

実は、これら一連の行動に障害者への潜在的な偏見が隠されているのです。障害者が発するエコラリアに対し、「笑ってはいけない」という暗黙の倫理はどこから生まれるのでしょうか。本作品は、トランペットスピーカーから聴こえてきたフレーズを純粋に楽しんでいた「笑い」と、そのフレーズが障害者による発語だと知った後の「倫理的な沈黙」との相違を鑑賞者が体験することにより、鑑賞者を「何故笑ってはいけないと思ったのか」という問いに導き、心に潜む無自覚的な偏見に「気づき」をもたらします。

スケベー、スケベー。スケベー、スケベ。
16 歳ですか?あと 2 年早いですよ。
スケベー、スケベー。スケベー、スケベ。

2005年11月/電車内/自閉症の男児

ごめんなさい、本当にごめんなさい。
そんなつもりじゃなかったの。
私が全部悪かったの。ごめんなさい。
でも本当にそんなつもりじゃなかったのよ。
これは私の責任よ。
ごめんなさい、ごめんなさいね。
本当にごめんなさい。

2002年5月/バス車内/知的・身体障害の女児

ばかばかし。

2002年6月/アトリエ/ダウン症候群の男児

心理学、心理学……心……心理学
僕は心理学を勉強しているんだ。
アイゼンクを知っている?僕はその本を探しているんだ。
心理学、心理学……心……心理学
2007年12月/本屋/知的障害の男性


2007年12月/本屋/知的障害の男性