PROJECT 1

当事者の声

 近年、障害者による芸術活動は「障害者アート」、「アール・ブリュット」、「アウトサイダー・アート」等と呼ばれています。これでは、「特別な人による特別な活動」であると誤解されてしまいます。そもそも、活動者の障害という属性による分類は本当に必要なのでしょうか。当事者を抜きに周囲にいる有識者や支援者が議論を重ねただけでは不十分です。芸術活動を行う障害者のある方々を対象に、「自分の芸術活動や作品をどう呼ばれたいか」についての意識調査を行っています。

【研究の成果】

 芸術活動経験が極めて豊富な2名を対象に、半構造化面接による同じ質問内容の面接を約1年間のうちに3回(1回目:2018年12月21日、2回目:2019年1月11日、3回目:2019年12月11日)実施しました。間隔をあけて同内容の調査を繰り返し実施したことにより、対象者はそれまでの芸術活動経験を踏まえ、使用される語に対する希望や考えを整理することができたと考えられます。それぞれが思い描く自身の作品に対するブランディングやプロモーションの方向性の違いが回答に反映される結果となりました。

Aさんは、「私のような絵を描いている障害者は少ないためアピールできる」、「障害があることを鑑賞者に分かってほしい」などの理由により、特に対外的に自分の活動を紹介する際には「障害」が付加された語の使用を希望しました。一方Bさんは、1・2回目の面接では、「『障害』が付加された語は聞き慣れない」などの漠然とした理由により、「障害」が付加されていない語を支持しました。しかし、社会的注目度の高いイベントに日本を代表するアーティスト(健常者を含む)の一人として選出された後に実施した3回目の面接では、「障害をアピールしていたら私は選ばれていなかった」と分析した上で、「『障害者アート』ではなく『アート』と呼ばれたい」と繰り返し述べました。

今回の調査結果から、「障害」が付加された語だけでなく「障害」が付加されていない語の使用を希望する当事者の存在が明らかになりました。支援者には、使用する(される)言葉について多様な選択肢と正しく分かり易い説明を用意した上で、普段から話題にあげるなど自らの希望を考える機会を提供し、意思決定に影響を与える発表などの経験を得た際は意向の再確認を行うなど、本人の自己決定を育み尊重する働きかけに努めることが求められます。

【成果の発表】

  • 清野智子・長谷川桜子:「障害者による芸術活動への支援に関する当事者への意識調査:表現に用いる語を手がかりとして」, 日本発達障害学会第55回研究大会(2020.12.26~27)