メディカルアート

SEINOは、国際メディカルアーティストスクール名古屋本校およびマニラ支部において、顎顔面補綴技術を習得しています。この技術は、先天性の奇形や不慮の事故、癌などにより、体や顔の一部を欠損した人の前向きな社会復帰を助ける目的で、医療用のシリコーンやレジン、インプラントなどを使用し、その欠損個所を本物そっくりに復元する極めて専門的な技術です。補綴物はエピテーゼと呼ばれ、制作者はアナプラストロジストと呼ばれます。

主に審美性の確保を目的としていますが、口腔内に比較的大きな欠損箇所がある場合、咀嚼・嚥下機能を助けたり、皮膚の露出面積を少なくし体温の低下を防ぐなどの機能的役割も認められています。また、口腔内のエピテーゼを制作する症例が多いため、アナプラストロジストは、歯科医や歯科技工士の有資格者がそのほとんどを占めます。

アナプラストロジストにとって最も重要なのは、高い技術力や最先端の材料をクライエントに提供することではなく、クライエントそれぞれの生活環境、欠損理由、精神状態へ配慮したエピテーゼを制作することです。欠損箇所に個体差があるのと同様に、クライエントの置かれている状況も一様ではありません。したがって、アナプラストロジストには、クライエントを「欠損患者」と一括りにせず、個人として真摯に向き合い、自己決定と自立性を尊重し、問題を解決に導く能力が求められます。

選択の自由としてエピテーゼを利用することは、自己決定です。例えば、性同一性障害の人が、自己意識に身体を近づける目的で男性器や乳房のエピテーゼを使用することは、選択の自由における自己決定であると言えます。しかし、SEINOの知るクライエントの多くは、自分の欠損箇所を世間の目から隠す目的でエピテーゼを使用していました。

このような事例があります。小学校のプールの授業中、小耳症の男子児童が使用していた古い耳のエピテーゼが外れ、水面に浮かんでしまいました。男子児童は、周囲の生徒にからかわれ登校することが難しくなり、母親に付き添われながら新しいエピテーゼの制作を依頼しにやって来ました。今日のエピテーゼの固定技術は、水中での運動にも十分に耐えることができます。しかし、アナプラストロジストは、男子児童から「耳が外れる」という不安を取り除くために、現存するもう片方の耳に掛ける機能的・審美的にも不要な維持装置を新しい耳のエピテーゼに装着しました。これにより、男子児童は学校に通えるようになりました。

この事例は、一見すると美談に聞こえます。しかし、男子児童が登校できたのは、いじめたクラスメイトの耳に男子児童の耳を似せ、障害児としての注目を浴びずに済んだからに他なりません。つまり、男子児童は、いじめを回避するためにありのままの自分を偽り、健常者の姿に同化するという選択を無自覚に迫られていたのです。

本来作るべきは、男子児童が自らの障害を否定し隠すための「耳もどき」ではなく、ありのままの姿で生きづらさを感じないための社会なのです。自覚・無自覚問わず障害者が本来の姿を偽ることを強制させられる構造は、明らかに差別であるとSEINOは言います。アナプラストロジストは、同化を強いる社会のあり方に「善」として加担してしまっているのではないでしょうか。このような考えに至ったSEINOは、現在この仕事から離れています。