健康規範眼鏡あります。

基本情報

・ 制作:2015年

・ 種別:映像

・ サイズ:25分

・ 素材:スクリーン・プロジェクター・PC


解説

本作品は、「障害を治すこと」を強制される視野障害の青年を通し、障害とは何か・健常とは何か、また、障害者とは誰か・健常者とは誰を指すのかを問いかけ、今日の健康至上主義や優生思想などに象徴される障害を否定的に捉えた「障害の医学モデル」へ一石を投じる目的において制作されました。

「健康規範」という言葉から連想されるのは、とてもポジティブなイメージですが、健康への過剰な執着は、「消極的な差別者」を無自覚のまま「積極的な差別者」へと変化させ、健康規範を満たすよう抑圧的な差別の矛先を障害者に向けます。しかし、障害者が生きづらさを感じる原因をまるで他人事のように社会という集団に擦り付けるだけでは何も解決しません。

社会とは、一人ひとりの人間で成り立っており、個人の変化なくして社会システムの改善は望めないのです。私たちは、一見「善い行い」、「常識的な慣習」とされる人間の素行が健常者による都合や偽の「善」となっていないかを見極め、真の正義に従い行動する力が求められています。

尚、本作品は、大学などにおいて教材としても使用されています。

・ 「障害の医学モデル」:障害者が生きづらさを感じる原因は、障害者個人にあると捉える概念。障害への対処法は主に医学。例) 視覚障害者が駅のホームから転落したのは、その人の目が見えづらかったからだ。

・ 「障害の社会モデル」:障害者が生きづらさを感じる原因は、多様な人間の存在を考慮せずに形成される社会システムにあると捉える概念。障害への対処法は、社会や思想の変革。例) 視覚障害者が駅のホームから転落したのは、ホームドアが設置されておらず、周囲の人が誰も助けなかったからだ。


チャプター

1:境界線を引く男/健康規範人の男は、貧乏ゆすりをしながら画用紙にたくさんの折り目(境界線)をつけている。

2:迷い込む青年/視野障害のある青年が「健康規範眼鏡あります。」と書かれたのぼりが立ち並ぶ奇妙な眼科へと迷い込む。

3:視力検査/眼科には白い大きな眼科医の男がいた。青年は、強制的に視力・色覚検査を受ける。

4:屈辱と高笑い/青年は、検査結果に屈辱を味わい、眼科医は高笑いをする。

5:パターナリズム/青年は、眼科医からどんな人間でも健康的な視力が取り戻せる「健康規範眼鏡」を受け取った。

6:美しい世界/恐る恐る目を開けた青年の前には、はっきりとした世界が広がり、全てが輝いて見えた。

7:障害を治した人たち/悦びに浸る青年の前を「健康規範眼鏡」をかけた何人もの老若男女が通り過ぎ、青年は驚嘆する。

8:健常の証明/頭上から青年の名が記された「健常者手帳」が降ってきた。それは、青年にとって新たなスティグマとなった。

9:過去の自分/その場に立ち尽くした青年の視界に飛び込んできたのは、再び姿を現したのぼり。その向こうに、白状をつく自分の姿が浮かび上がった。

10:スティグマからの解放?/青年は意を決し「健康規範眼鏡」と「健常者手帳」を投げ捨て、過去の自分との境界線に向かい走り出す。しかし……。


協力

【出演】主演:仁平広之/健康規範人:石川展光/障害を治した人:吉田悠莉, 森田明, 藤田ありさ, 長沼光代, 三上航平, 原田美樹, 熊木尋啓, 吉田悠美/協力:熊木梨乃【技術】撮影・照明・録音:植木誉人/撮影助手:三上航平/協力:瀬尾侑之/企画・制作・監督・構成・編集・美術:SEINO